医療法人三恵会 服部病院

丸田先生の診察室

その17 排便後、下着が汚れる

[問い]排便後に肛門をよくふいてウォシュレットで洗っていますが、下着が汚れます。原因は肛門括約筋がゆるいためと言われました。良い治療法はありますか。
(愛知県尾西市 女性 71歳)

[答え]肛門括約筋には、自分の意思に関係なく締まる内括約筋と、自分の意思で締めることのできる外括約筋があります。
外括約筋は常時、締めている力は弱く、女性では出産や便秘、加齢によって括約筋が緩むことがしばしばあります。
肛門括約筋の機能低下の原因は、出産による括約筋の切断、肛門括約筋支配の神経切断、骨盤底群の加齢による弱体化などが多い。
ただ、原因が何であっても肛門が緩いため、便は漏れます。その程度は1度(たまに下着が汚れる)、2度(おならが漏れて下痢が我慢できない)、3度(軟便や固形便が漏れる)に分類されます。
3度の状態は外科手術が必要になります。手術は、括約筋が切断されていれば括約筋を縫合し、緩い場合は肛門の前方、または後方の括約筋を短くして縫い合わせます。
ご質問の内容から察して、1度か2度だと推察します。この場合はウォシュレットを使用すると、緩い肛門から洗浄水が直腸に入り、下着を汚すことがあります。従って、排便後は紙だけでふき、それでも下着が汚れる場合は専門医に相談してください。

平成21年9月29日 読売新聞掲載記事

その16 アメーバ赤痢はどんな病気?

[問い]腹痛を伴い、粘液と血液の混じった下痢便がありました。その後も症状は改善せず、アメーバ赤痢と診断されました。どんな病気で、家族への感染はありませんか。
(名古屋市 男性会社員 58歳)

[答え]この病気は、赤痢アメーバという原虫の感染によって起こる赤痢(血が混ざる下痢)です。
以前は日本に赤痢アメーバはいないと言われていましたが、海外旅行者による輸入感染症として、国内にも原虫が存在するようになったと言われています。
もし、この病気に感染していたら、下痢便の中からアメーバが、固形便の中からはアメーバの嚢子(のうし)が見つかります。
赤痢アメーバの混じった水を飲んだり、ハエやゴキブリが運んだ嚢子のついた食物、嚢子保有者が調理した飲食物を接種したりすると感染します。
症状は、粘液と血液の混じった下痢便が1日数回から十数回あり、腹痛もあります。潰瘍性大腸炎の症状に似ていて、場合によっては2,3日発熱することもあり、続くと貧血を起こして体重も減少してきます。
赤痢アメーバは、直腸や盲腸など、便がたまる部位に住み着いて炎症を起こします。治療は、メトロニダゾール系の内服が有効です。潰瘍性大腸炎で用いられるサルファピリジンなどはまったく効きません。
重症になると、赤痢アメーバが肝臓や肺に住み着いて潰瘍を形成し、外科的手術が必要になります。
予防は、①不潔な生水は飲まない②食前には必ず手を洗う③流行地では加熱した食事をすることです。

平成21年7月28日 読売新聞掲載記事 

その15 人工肛門 どんなもの?

[問い]肛門痛と血便があり、肛門外科で人工肛門になると言われました。人工肛門とはどんなものですか。
(愛知県名古屋市 会社員 63歳)

[答え]人工肛門と聞くと、金属やプラスチックでできた人工的なものを想像しますが、そんな機械的なものではなく、単に大腸を切った円筒型の腸をそのまま腹壁に固定して便を体外に排出するものです。
人工肛門という言葉がよくないため、今ではストーマと呼ばれています。
大きさは直径約2.5~3.0㌢。肛門と違って括約筋がないので、排便を我慢できないという点はありますが、運動や入浴、旅行もできます。
日常の生活を快適にするには、便をためる袋をストーマ周囲の皮膚に接着固定させます。
手術前にはなかなか想像しにくく、不安だと思いますが、専門病院には手術後のストーマをつけた患者さんがいますので、一度見せてもらうと理解できると思います。
また、ストーマをつけている人たちの会があります。愛知県内には「健心友の会」(0587-55-5017)がありますので、連絡を取って指導を受けられてはいかがでしょうか。
余儀なくストーマをつけて生活するようになった場合、公的年金制度による障害年金の支給も受けられるので、市区町村の役所に問い合わせてください。
大腸肛門病の外科手術は目覚ましく発展しており、肛門機能をぎりぎりに残す手術が可能になっています。
1か所の施設だけでなく、セカンドオピニオンとしてほかの専門医の診察を受けることも一つの方法で、ひょっとしたら肛門を残すことができるかもしれません。

平成21年2月24日 読売新聞掲載記事

その14 直腸癌を手術。再発気になる

[問い]直腸がんの手術を受けて退院したばかりですが、がんの再発が気になります。再発の症状と、どんな検査を受けたらよいのか教えてください。
(愛知県岡崎市 会社員 63歳)

[答え]手術された直腸がんの進行度がどの程度かによって再発の頻度は違います。
早期がんであれば、ほとんど再発はないと思われるので、頻繁に検査する必要はありませんが、進行がんであれば再発の可能性があります。再発の臓器では、①肝臓②肺③直腸局所、または局所の所属リンパ節④脳、副腎、骨などです。
臓器再発の症状は、転移したがんがよほど大きくならないと出ません。しかし、直腸と肛門を同時に切除した術式では、会陰部の痛みは局所再発の初期から出ますので、手術後は定期的な診察と検査を受け、できる限り早期に再発を発見することが重要です。
一般には、血液の腫瘍マーカーのチェックと胸部レントゲン検査、胸部、腹部、骨盤部のCT検査、肝臓の超音波検査などです。これらの検査の間隔については、まだ、一定の基準とその正当性はありませんが、手術してから3年以内の場合、血液検査は3か月ごとに、CT検査と超音波検査は6か月ごとに交互に受けるのが一般的です。
そのほか、大腸内視鏡検査は再発、発見を含めて多発がん発生の発見にも役立ちます。
手術後3年を過ぎると、血液検査の間隔を6か月に延ばしてもよいとされ、5年の経過すると、再発の頻度は極めて低くなります。
5年間再発がなければ、がんは治ったと考えられますが、まれに、肺では7、8年してから転移が発見されることもあるので、大腸がんの性質をよく知った医師に受診することが大切です。

平成20年2月26日 読売新聞掲載記事

その13 信頼できる病院選び  大腸肛門病専門医特集

平成19年11月2日号 週刊朝日掲載
医療シリーズVOl.132

【専門医制度とは】医療学界等の学術団体が独自に専門医としての資格の認定を行う制度。厚生労働省に届け出、受理されると専門医師名を公表できる。

厚生労働省では、医師または歯科医師の専門性に関し、告示で定める基準を満たすものとして厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定する資格名の広告ができるようになった。医学会認定専門医シリーズ第132回は、今年8月に新たな認可を受けた日本大腸肛門病学会認定の大腸肛門病専門医について、同学会理事長の丸田守人先生にご寄稿いただいた。

広告できる専門医とは

一連の規制緩和の流れの中で、2002年4月1日から、医療を受ける患者さんが、より分かりやすく専門医を受診できるようにという厚生労働省の意向により、「専門医の広告に関する外形基準、手続き」が定められました。

この外形基準では、9項目を全て満たさなければ、厚生労働大臣の認可を受けることはできません。重要な項目としては、評価、審査をする学術団体が法人格を有していること、外部からの問い合わせに対応できる体制がとられていること、資格認定の際には十分な年限の研修がなされ、適正な試験が実施されていること、専門医資格を定期的に更新する制度があることなどがあります。

大腸肛門病専門医とは

大腸肛門病専門医は、1940年(昭和15年)以来の伝統ある日本大腸肛門病学会が、法人格を有した学術団体となり、1988年から専門医制度を発足させ、厳しく資格を審査のうえ、筆記試験ならびに口頭試問を行って、一定の基準以上であると認定した医師です。

大腸は、解剖学的に盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸をいいますが、それに肛門を含めた大腸肛門に発生、関連する病気の全てに対して、専門的立場から患者さんに対応できるのが、大腸肛門病専門医です。

したがって大腸肛門病専門医には、基本的診療科として内科、外科、放射線科、病理科、肛門科などの医師が登録されています。大腸肛門病専門医とうたっている場合には、たとえ内科医であっても大腸肛門病については、外科的なことも十分理解し、患者さんに対応できるといえます。同じように肛門科であっても直腸や結腸の病気に対して指導してもらえるといえるでしょう。

大腸がん、潰瘍性大腸炎など多岐にわたる大腸肛門病

食事や生活が欧米化していることにより、いろいろな大腸疾患が増えています。健康診断の検便により鮮血陽性を指摘され、大腸内視鏡検査をしますと、大腸ポリープがかなりの頻度で発見され、その中の一部ががんに変わるとされています。大腸肛門病専門医には、大腸内視鏡検査を得意とする医師も多く、発見されたポリープを、内視鏡的にその場で切除することも可能となっています。

潰瘍性大腸炎も最近は非常に多く発見されており、以前は20歳代の若い人に多い病気とされていましたが、最近は50歳代、60歳代にも発症しています。原因は現在不明ですが、多くは内服治療で寛解します。排便時に血性の下痢に粘液が混じっている場合には専門医を受診することが大切です。

大腸がん(結腸がん、直腸がん)も発生頻度が多くなり、日本人のがんでは、男性では胃がん、肺がんに次いで3位、女性では乳癌と並んで1位となっています。大腸がんの早期発見には、排便時出血はもちろん、検便の潜血反応も大切とされています。予防方法には、明らかな因果関係はまだ証明されていませんが、普段の食生活において緑黄色野菜を多く摂取すること、アルコールをひかえること、牛肉食、保存肉を減らすこと、またよく運動をすることなどが挙げられます。

そのほか近年多い大腸疾患としては、若い人のクローン病、高齢者の虚血性大腸炎、結腸憩室症などがあります。

肛門病の3大疾患

口や歯の具合が悪いと、気楽にお医者さんを訪ねて、治療するのですが、肛門が痛かったり、排便時に紙に血がついたり、肛門に飛び出るしこりがあったり、具合が悪くても、お医者さんのところには行きにくいものです。

排便時の出血、痛み、腫れものなどを症状とする病気は、①痔核、②裂肛、③痔ろうが3大疾患ですが、一般にはまとめて「痔」といわれています。「痔」は軽症から重症までさまざまです。「痔」になったようだと自己診断して、大学病院や大きな病院を受診する人は少なく、近くの医師で診てもらうことが多いようですが、これからは、大腸肛門病専門医という標榜はひとつの目印になるかと思います。また、放射線科、病理科の医師であってもきっと適切な相談を得られると思います。

痔の治療の進歩

内痔核の治療といえば、痛い手術のイメージが強いのですが、約3年前から切らない痔の治療として注射による硬化療法のひとつ、四段階注射法が普及しています。

これは中国で古くから用いていた薬を、日本で安全性を高め、開発された注射液を用います。より安全に行うために、講習会を行い、認定された医師のみによって行います。この認定は大腸肛門病専門医の資格とは全く別の資格ですので、誤解されませんようにお願いします。

この方法以外にも、痛くないゴム結紮法(内痔核の根元を特殊なゴムで縛り、血行を遮断して壊死、消滅させる)や、通常の硬化療法などにより治療することができます。重症になる前の方が、簡単に痛みもなく処置できることは、他の病気における「早期発見、早期治療」とまったく同じです。

診断から治療まで質の高い専門医療の提供

「大腸肛門病専門医」は、この8月に厚生労働省の認可が下り、このたび広告できるようになりました。国民の皆様には、従来以上にわかりやすい広告ができますので、利用されると大腸肛門病についてのより専門的な診断から治療までの受診が可能になると考えます。

その12 「痔」の言葉には全く異なる3つの病気がある

平成19年9月23日号 サンデー毎日掲載
3人に1人が持つ生活習慣病 痔の治療完全ガイド特集

肛門の具合が悪いと、全て「痔」が悪いという表現になります。しかし、医学的に「痔」には、痔核、裂肛、痔ろうの3つの種類があります(図1)。1つは痔核(俗に言ういぼ痔)です。肛門の奥にできるのを内痔核、肛門の皮膚の近くにできるのを外痔核といいます。内痔核は痛みを感じない肛門の奥の粘膜の下に少し膨らんで発生し、便に擦られて出血しやすくなります。症状は、排便時に出血があることがあります(第一度)。内痔核がぶよぶよと大きく膨らみ、移動するようになると、排便時に肛門から、膨らんだ内痔核が脱出します。脱出した内痔核は、初期には排便後に肛門の中に自然に戻るのです(第二度)が、次第に自分の指で肛門の中に押し込まないと戻らなくなり、さらに進むと歩いている時や重いものを持ち上げたりすると、肛門から簡単に内痔核が脱出します(第三度)。

痔の種類

肛門の皮膚で膨らむ外痔核は、内痔核とともに発生することも多く、便秘で強くいきんだり、長時間同じ姿勢でいたり、肛門が冷えたりすると、肛門に負担がかかり、発生します。肛門の皮膚に近い血管の中に、血が固まって凝血の塊ができて「痛み」と「しこり」が触れる場合は、これを血栓性外痔核といいます。
2つ目は裂肛(俗に言う切れ痔)で、女性に多い症状です。肛門の粘膜と皮膚の境目が縦に裂けて切れます。多くは肛門の背中側(後側)あるいは腹側(前側)に切れます。便秘をして硬い便をしたときに、肛門が切れた痛みと同時に、出血を認めます。排便後に痛みはなくなりますが、再び硬い排便により切れて出血します。この切れたり、裂けたりの状態が繰り返し続くと、慢性の状態になります。切れた部分は深く潰瘍となり、排便時には毎回激しい痛みが発生し、治りにくくなります。
3つ目は痔ろう(俗にあな痔と言う)です。女性より男性に多い状態で下痢などにより、肛門の中にある窪みから細菌が侵入して、肛門括約筋の周囲に炎症が起き、38度位の高熱が出て、肛門が腫れてじっとしていても、痛みが著しく、座ることができにくい状態になります。

切らない内痔核の治療

痔の治療は、すぐに手術と考える人が多く「痛い」というイメージですが、内痔核の程度により治療方法は異なります。内痔核の治療は、基本的に生活習慣、排便習慣の改善など生活療法を主体にした上で行うのが最も良く、再発を防ぐことができます。入院を必要としない治療には、注射療法、ゴム結紮法などがあります。入院を要する治療には結紮切除術、特殊な器械で緩んだ痔核をもとに戻す方法(PPH)などもあります。

硬化剤注射で出血を止める硬化療法

内痔核の進行程度により、坐薬などの薬物療法を行いますが、内痔核の根部に硬化剤を注射して出血を抑えるのが、いわゆる「硬化療法」です。硬化療法を行いますと、出血がとまりますので、従来の生活習慣を変えて、これ以上に内痔核が進まないように注意します。この方法ではしばしば再発が見られますので、時々注射してもらうことが必要になるかも知れません。

四段階注射法とゴム結紮法

最近は出血と同時に垂れ下がる内痔核に対して、「4段階注射法」という特殊な薬を注入する方法が開発されました。4段階注射法は、中国で古くからあった水溶性局所注射剤消痔霊を、日本で改良した液体を、内痔核に注射します(図2)。注入部に強い炎症をもたらし、痔核を繊維化し、出血と脱出を改善します。しかし、注意して行わないと合併症が起きますので、、「4段階注射法」の講習を受けた認定された医師によって、安全に行われる必要があります。ゴム結紮法とは内痔核の根元を特殊なゴムで縛り、血行を遮断して内痔核を壊死、消滅させる方法です。内痔核は痛みのない部分ですから、麻酔も必要なく、全く痛みはありません。外来で簡単に処置されます。

四段階注射法の注入

裂肛と痔ろうの治療 

裂肛の治療も、基本的には毎日の食習慣を見直して便通を整えることです。下痢と便秘は裂肛の原因でもあり治療を阻害します。便の硬さを練り歯磨き粉くらいの固さにすること、朝食を食べて、胃に刺激を与えて、便意を起こさせること(胃結腸反射)、食事の内容にも、食物繊維が十分にあり、ヨーグルトや乳酸菌飲料など腸内細菌のバランスを整える食事を心掛けてください。一方、水分の取りすぎ、過食、酒の暴飲もよくありません。このような生活改善をしても、症状が良くならない場合は、短期の入院治療が必要となり、肛門括約筋を広げる手術あるいは、肛門が狭い場合は皮膚弁移動術などが必要になります。

痔ろうの治療は、基本的に入院を要して、外科手術となります。裂肛の治療にしろ痔ろうの治療にしろ信頼できる専門医師と良く相談して治療してください。

その11 女性の3人に1人が悩む 女性のための痔の治療

平成19年1月10日号 週間女性臨時増刊掲載
女性にいい病院2007年版

日本人の「3人に1人が患っている」といわれるほど痔は身近な病気です。特に女性に多い便秘や冷え性は痔の最大の原因になっています。
恥ずかしさなどから病院に行かず病気を悪化させる方が多いようですが、早めに医療機関を受診し、治療を受けてください。

痔の種類と症状について

口から食べた食事が、消化吸収し便として肛門から排泄されます。口や歯の異常は治療するのですが、肛門の病気、「痔」はなかなか病院には行きません。

痔の種類は3つあります。1つは痔核(いぼ痔)で、女性も男性も多い病気です。痔核は痛みを感じない肛門の粘膜下にでき、便に擦られて出血しやすくなります。痔核が大きくなると、出血は、ポタポタと落ちたり、勢いよくシャーと出たりします。さらに大きくなると、排便時に肛門から痔が脱出します。脱出した痔が排便後に自然に戻るのは初期で、次第に指で押し込まないと戻らなくなります。歩いていると、あるいは、重いものを持ち上げたりすると、肛門から脱出するようになります。

このような痔核が肛門より直腸側に発生した痔を、内痔核といいます。肛門側にできるのは、外痔核といいます。外痔核は、便秘で強くいきんだり、長時間同じ姿勢でいたり、肛門が冷えたりすると、肛門に負担がかかり、発生しますが、肛門の周りの血管の中に、凝血の塊ができて「痛み」と「しこり」が触れる場合は、これを血栓性外痔核といいます。

痔疾患の男女別割合

2つ目は裂肛(切れ痔)です。男性より女性に多い病気です。
肛門の粘膜と皮膚の境目が裂けるのです。便秘をして硬い便をしたときに、肛門が切れた痛みと紙につく少量の出血があります。排便後に痛みはなくなりますが、また硬い便をすると同じように切れて出血します。これが繰り返し続くと切れた部分が潰瘍になり、排便時には毎回痛みがあり、その痛みを思うと、ますます便秘になり悪循環です。切れた肛門の皮膚側には、皮膚のたるみができて(見張りいぼ)、次第に大きくなります。便秘だけでなく、下痢を繰り返していても、また香辛料、脂っこいもの、アルコールなどが原因で、肛門が切れることもあります。

3つ目は痔ろう(あな痔)です。下痢などにより、肛門の中から細菌が侵入して、肛門の周囲に炎症が起き、38度くらいの高熱が出て、肛門が腫れて痛みが著しく、膿が溜まります。膿が肛門からすこし離れた皮膚から出ると肛門の中とトンネルを形成したことになり、これが痔ろうです。女性より男性に多い病気です。

女性に多い便秘、冷え性が痔の最大の原因に

若い女性はスマートでありたい一心で、朝食を抜いたり、食事の量を極端に減らしたり、特に食物繊維が少ない食事では便秘になりやすいです。便秘になると便が硬く、コロコロになり肛門には負担がかかります。排便時に強くいきむこと、排便時間が長いことにより、肛門の静脈叢のあるクッションが膨らみ、いぼのような内痔核になります。冷えのほか、きついコルセットで腹部を締め付けるのも便秘の原因になります。

食事は毎日きちんと3回とって、腹部を暖かく、ゆるめに保ち、便意があればすぐにトイレに行き排便することです。食後には必ず排便反射があるはずです。また、排便時間をできるだけ短くして下さい。

20~40歳代の女性に多い裂肛

裂肛の大きな原因は、便による繰り返しの外傷です。すなわち、硬い便を無理にいきんで排便することです。硬い便により肛門に傷がつきます。その位置は、背中側(後方)が多く、時には腹側(前方)に発生します。一度肛門に傷がつくと、便が通るたびに肛門が切れて、完全な回復がないまま進行していきます。従って、便通をよくすることが裂肛の予防には大切です。

妊娠、出産で痔が発生したり、悪化を招く

妊娠出産も痔の大きな原因です。妊娠により子宮が大きくなると、下腹部の圧力が高くなり自然と肛門に負荷がかかりますし、直腸を物理的に圧迫し便秘にします。出産時には排便時以上に、いきむ必要があり肛門周囲に影響が出ます。妊娠、出産がきっかけで痔になることもあり、以前からあった痔が悪くなることもあります。便秘にならないように食事、運動などに気をつけることです。

内痔核の治療は、すぐに手術と考える人が多く「痛い」というイメージですが、痔の程度により治療方法は異なります。まず、基本的に生活習慣、排便習慣を改善することが重要です。トイレには、新聞、本、雑誌、タバコを持って入らないこと。便が出なければ無理に出さないこと、便が出なければ諦めてトイレから出て、便意のあるときに排便をすることです。便秘にならない食生活をして下さい。繊維の多い食事を十分にとることです。すぐに便秘薬、特に大腸刺激性の下剤を使用しないことです。便秘薬には習慣性があり、その下剤がないと排便できなくなります。また漢方薬の中にも習慣性となるものがあり、漢方薬だから安心というわけではありません。

切らずに治す痔の治療

痔の治療は、生活療法を主体にした上で、入院を必要としない注射療法、特殊なゴムを用いたゴム結紮法などがあります。そのほか垂れ下がった痔の状態には、特殊な器械で緩んだ直腸を切って痔核を元の位置に戻す方法などもあります。

裂肛の治療も、基本的には、毎日の食習慣を見直して便通を整えることです。便の硬さを練り歯磨き粉くらいの軟らかさにすること、朝食を食べて、胃に刺激を与えて、便意を起こさせること(胃結腸反射)、食事の内容にも、食物繊維が十分にあり、ヨーグルトや乳酸菌飲料など腸内細菌のバランスを整える食事にしたいです。このような生活改善をしても、症状がよくならない場合は、肛門を拡げる手術あるいは、肛門が狭い場合は皮膚弁移動術などが必要になりますので、信頼できる専門医師とよく相談してください。

内痔核の注射療法とは

内痔核の進行程度により大きさ、部位などに応じて坐薬などの薬物治療を行ったり、図に示しましたように内痔核の根部に硬化剤を注射して出血を抑えるいわゆる「硬化療法」があります。硬化療法では、一般的には出血が止まりますので、今までの生活習慣を変えて、これ以上に内痔核が進まないように注意します。この方法は、結構、再発が見られますので、場合によっては時々注射してもらうことが必要になるかも知れません。

最近は、出血と同時に粘膜の垂れ下がる内痔核に対しては、「4段階注射法」(図1)という特殊な薬を注入する方法が開発されました。4段階注射法は、中国で開発された水溶性局所注射剤消痔霊を改良した液体を、内痔核に注射します。注入部は強い炎症をもたらし、痔を繊維化し、出血と脱出を改善します。しかし、注意して行わないと合併症が起きますので、講習を受け認定された医師によって、この注射療法が適しているかなどを検討して、安全に行われる必要があります。
1. 治療はまず肛門を取り巻く括約筋を麻酔で緩める。
2. 次に内痔核ひとつにつき、①痔核上側の粘膜下層、②痔核中央の粘膜下層、③痔核中央の粘膜固有層、④痔核下側の粘膜下層の順に4箇所に治療薬を注射する。
3. 痔核へ流れ込む血液の量が減ることにより出血が止まる。
4. 徐々に脱出の程度も軽くなり、内痔核が縮小する。注射療法後、1週間から1ヶ月くらいで脱出していた組織が元に戻り、脱出がなくなる。

四段階注射法の注入

ゴム結紮法とは

内痔核の根元を特殊なゴムで縛り、血行を遮断して内痔核を壊死、消滅させる方法です。内痔核は痛みのない部分ですから、麻酔も必要なく、(図2)に示しましたように、内痔核を肛門の皮膚のほうに引き出して、痔核の根部近くにゴムが掛かるような位置に、器械を当てて、ゴムを一瞬のうちに掛けます。
これで終了です。全く痛みはありません。約一週間で結紮された痔核は脱落消滅します。ゴムは自然と脱落しますし、粘膜面は点状になって治ります。痛みや出血もなく、外来で簡単に処置されます。

ゴム結紮法

怖いのは出血性の痔の影に「がん」が隠れていることがある

肛門から出血があり、痔に違いないと自分勝手に決めつけていることがあります。痔そのものが、そのまま放置していても、「がん」になることはありませんが、痔による出血なのか、「がん」による出血かの区別を見極めることが、難しいのです。肛門という場所だけに、なかなか病院に行きたくないものですが、排便時に出血を認めたら、専門の医師を受診することです。

痔ろうにはクローン病の初期が隠れていることがある

一般に、下痢しやすい人は、肛門の歯状腺の窪みにある肛門腺から細菌が感染し、肛門周囲炎から痔ろうになりやすいのですが、原因はまだ分かっていませんが、同じような症状と所見で発生するクローン病があります。クローン病は若い人に多く発生しますが、非常に治りにくい病気ですから、専門医師の治療が必要です。

また、痔ろうを10年、15年と炎症が長期に存在したままで放置していますと、痔ろうから発生した痔ろうがんになることがあります。こんな場合は手術により人工肛門になってしまいますので、痔ろうは早めに根本的治療を専門の医師により受けて下さい。

高齢者では直腸脱を痔と思っていることがある

高齢者の女性では、骨盤底筋肉が緩んでいて、腹圧性の尿失禁などもかなりの頻度で認められていますが、同時に肛門括約筋も緩んでいるため、排便時に痔が脱出したと思って、排便後に手指で戻しているが、実は内痔核ではなく、直腸粘膜が肛門から脱出していることがあります。これを直腸粘膜脱といいます。直腸粘膜脱出は全周性に脱出し、繰り返しの脱出では、ますます肛門括約筋が弱く失禁状態になることもあります。

痔は生活習慣病であり、痔にならないために

痔は生活習慣病、排便習慣病という意見もあります。過度の飲酒、冷えを避けて、朝食をとり、排便反射を感じる習慣をつけて、スムースな排便をすることです。便意があったときには我慢せず、その時に排便することです。できれば3分から5分くらいの排便時間が理想的です。便意がないのに無理に便を出そうとしないことです。

食事では、いんげん豆や、あずき豆など豆類、米や麦など穀類、ごぼう、サツマイモ、きのこ類、こんにゃく、海藻類、乳製品、水分もたっぷりなど心がけてください。一方避けたい食品は辛いものです。

じっと同じ姿勢を長くせずに、適度な運動も大切で、血液の循環を良くして下さい。腹部を冷やさないように暖かくするよう心がけてください。

肛門の清潔も大切ですが 、最近は温水洗浄便座を使用している人の中に、水圧を強くして肛門を洗浄する目的のほかに、直腸にまで温水を入れて、浣腸をかけている人も見かけます。温水を入れないと便が出ないと訴えてきます。水圧はできるだけ弱くして、注意して使用してください。入浴は血行を良くすると同時に肛門も清潔に保たれます。

痔の予防に心がけること

身体を清潔に保つために毎日入浴する排便時にいきまない排便後は肛門を水で洗う食物繊維、水分をしっかり摂取するお腹を冷やさないようにする適度な運動に励む刺激の強い食べ物を避ける同じ姿勢でいない

その10 潰瘍性大腸炎の完治は難しいか

[問い]腹痛と血便があり、検査の結果、潰瘍性大腸炎とのこと。完治は難しいといわれました。本当でしょうか。
(愛知県豊橋市 会社員 55歳)

[答え]潰瘍性大腸炎は現在、原因は究明されていません。従って、治療によって完全に治癒できるという根治療法はなく、「完治」という言葉は使えず、症状が落ち着いている状態を言う「緩解」という言葉が使われます。完治しなくても、治療効果によって長期間にわたり緩解を維持している患者はたくさんいます。治療は、まず心身の安静を保ち、十分な睡眠をとることが重要です。ストレスや過労、風邪、受験、妊娠、出産、環境の変化などで症状が悪化します。精神安定剤を用いることもあり、食事では、消化のよいものをとり、アルコール、強い香辛料、脂肪の多い食べ物を制限することが大事です。
薬物療法では、病状の軽症、中等症、重症により異なります。軽症、中等症では、サルファピリジン、メサラジンの内服が基本です。直腸の限局病変に対しては、副腎皮質ホルモン(ステロイド)の坐薬、あるいはステロイドの注腸も有効なことがあります。中等症から重症では、ステロイドの内服が行われます。十分多い量を短期間に使い、症状の軽快によって減量しますが、減量によって再燃するので、減量は慎重に行わなければなりません。ステロイドも治療効果は高いのですが、依存する患者もいるので、副作用に注意が必要です。ステロイドが無効な場合は、免疫抑制剤の内服、リンパ球除去療法、腸の動脈にステロイドを注入したりします。重症な急性増悪状態では、速やかな手術が必要です。治療によって症状が緩解しても治療を中止せずに、緩解期をできる限り長く維持するように心がけることが大切です。
平成19年9月11日 読売新聞掲載記事

その9 痛みなく、排便後の便の切れが悪い

[問い]排便後の便の切れが悪く、排便をしたという感覚もなく、何度しても紙に便がつきます。痛みはありません。肛門科で2回大腸検査を受けましたが異常なしです。
(岐阜県安八郡 タクシー運転手)

[答え]注腸検査や大腸内視鏡検査で、異常がないので炎症や潰瘍、痔などの器質的疾患ではなく、機能的疾患が考えられます。

運転手とのことなので、慢性の機能的結腸便秘が根底にあるのではないかと思います。

質問の症状は、直腸の弛緩、いきみと肛門括約筋の収縮、弛緩の不調和による直腸肛門性便秘による便排せつ障害の疑いが強いです。
排便のメカニズムは、直腸に便が流入して拡張と内圧の上昇があると、内肛門括約筋が弛緩して外肛門括約筋は少し収縮して腹圧とともに便が出ます。便意があっても、外肛門括約筋を収縮させて排便を我慢すると、直腸が収縮して内圧は下がり、便意が消え、便は逆輸送されます。正常な排便メカニズムが狂うと、便排せつ障害が起こります。便を出そうといきむと、肛門括約筋が緩まず、逆に、収縮して便が出なくなり、トイレで長時間頑張ることになります。
このため、無理をして便が出ても、直腸に便が残る状態となります。これを便排せつ障害と言います。一時的便秘でも、高齢者の習慣性便秘でも、正常な排便メカニズムが狂います。
治療は、腸ぜん動促進剤で便秘を改善しながら、直腸肛門反射を正常に戻すバイオフィードバック法を用いて正しい排便反射になるよう訓練します。
 平成19年1月31日 読売新聞掲載記事

その8 人工肛門になると言われた

[問い]排便時に出血があり、大きな病院での検査で直腸がんと診断され、人工肛門になると言われました。納得できず別の小さな病院で診察を受けたら、何とか肛門は残せると言われ悩んでいます。
(愛知県岩倉市 会社員・宮田 63歳)

[答え]直腸がんでは、がんの場所が肛門に近いほど肛門も切除しなければならず、人工肛門になる割合が高くなります。
最近は外科手術が進歩し、できるだけ大腸を肛門につなぎ、人工肛門にならない「肛門温存手術」が普及しています。私も同じような悩みの患者さんにこの方法を提供し、患者さんから人工肛門にならなかった喜びの声を聞いています。
直腸がんの根治性については、がんが粘膜、あるいは粘膜下層にとどまる早期がんではほとんど治りますので、安心して肛門を温存できると思います。
問題は、進行がんの場合ですが、大きながんであっても直腸周囲のリンパ節を取り除き、がんの肛門側から2センチ離れて肛門につなぐことができるなら、根治性はあると考えられます。
このような肛門温存手術で最も難しいのは、骨盤内のリンパ節を徹底的に取り除くことと、膀胱や性機能ををつかさどる自律神経を損傷することなく残すことです。
大きな進行がんの中には、がんが肛門括約筋の中にまで浸潤していて、がんの肛門側からの距離がまったくとれず、やむを得ず人工肛門になります。
この場合でも、がんの根治性を得るためには、リンパ節を取り除き、自律神経機能を温存する必要があります。
直腸がんの治療では、病院の大きさで決めるのではなく、がんの肛門からの距離と浸潤の程度など専門的判断のできる専門医がいる施設で治療してもらうことが大切です。
平成18年12月13日 読売新聞掲載記事

その7 市販の便秘薬が効かず、便に血

[問い]若いときから便秘で、市販の薬を飲んでいますが、最近は薬の効果がなく、お腹が張り、便に血が混じります。
(愛知県岩倉市 主婦・山川 51歳)

[答え]数日に一度しか排便がなくても便が楽に出れば、便秘治療の必要はありません。便通は日常の食事内容、ストレス、生活習慣などに影響されますが、多くは習慣性のものです。
若い頃の排便習慣が良くなかった上、医師の指示を受けずに自分で市販の下剤を長年使用したため。下剤による習慣性便秘になったと考えられます。
下剤には
①直接大腸の粘膜を刺激してぜん動を促す
②大腸での水分吸収作用を抑えて水分を保ち、便を軟らかくする
③水分により膨張し、便の体積を増やして便意を促す
④便の表面張力を低下させ、便を軟化させる
と作用機序が違い、また、習慣性になる薬もあり、特に、大腸刺激下剤の使用は弛緩性便秘となります。

便秘の原因を理解し、正しい下剤の使い方が大切ですが、あなたの症状で重要なのは、下剤が効かないだけでなく、血便のあることです。
長年の便秘という症状で、血便が無視されています。例えば、大腸ポリープ、大腸がん、結腸多発憩室、内痔核などによる狭さくがあって出血している場合もあるので、しつこい便秘と自己判断をして、便だけが出ればよいと考えるのは危険です。
私の経験から、強力な下剤を使い、便を水様性下痢で出していて、進行した大腸がんが見過ごされていた患者さんもいました。一度、専門の医師を受診して、大腸の注腸、あるいは内視鏡検査をすることも必要です。
平成18年6月28日 読売新聞掲載記事

その6 痔で悩んでいる。良い治療法は

[問い]5、6年前から排便時に出血があり、最近では便の後、肛門から痔が出ます。そのつど手で戻していますが、何か良い方法は。
(愛知県豊田市 自営業・富田 45歳)

[答え]]排便時に出血のある病気には、切れ痔、内痔核、外痔核、直腸がん、肛門がん、直腸ポリープ、直腸炎などがあります。
あなたの場合は、排便後に肛門から脱出したものを、自分で元に戻していることから、裂肛、外痔核、直腸炎は否定されます。
一般には、頻度の高い内痔核を考えますが、時には直腸下部のポリープが肛門から出ることもあります。また、直腸下部、あるいは肛門のがんそのものが出ることがあります。自分で痔だと思っていたのが、実はがんであることがあるので、必ず専門医の診察を受けてください。
内痔核なら以下の治療法があります。まず、自分で元に戻していることから、内服薬や坐薬では絶対に治りません。脱出する痔核の程度によりますが、ひとつは局所に注射する方法です。最近では、四段階注射法という新しい注射や薬も開発され、効果がありますが、熟練した技術がいります。
もう一つはゴム結さく法で、最も簡単な方法です。脱出する痔核の根部を特殊なゴムで結ぶものです。外来の診察室で簡単に無痛性に処置できます。処置後の生活も普通にできます。
手術にもいろいろありますが、結さく切除法が一般的です。肛門の障害が残らないよう訓練された専門医を選ぶことが大事です。
平成17年10月25日 読売新聞掲載記事

その5 直腸がん。手術を勧められたが

[問い]以前から痔が悪く、排便時に出血がありました。毎日出血するので肛門専門医を受診したところ、直腸がんと診断され、手術を勧められました。人工肛門になりますか。
(三重県四日市市 会社員・元山 59歳)

[答え]痔と直腸がんの症状は、しばしば似ています。排便時に赤い出血を認めて、痔と自分で判断することは危険です。あなたは肛門専門医で直腸がんと診断されていますが、直腸がんの手術はおおよそ次のようであると理解してください。

①直腸がんのできる部位が肛門から奥へ6センチ以上だと、がん根治手術のために直腸を手術して肛門を温存し、S状結腸と直腸をつなぐ吻合ができるので、人工肛門にはなりません。

②直腸がんの部位が、肛門から4センチ以内では、がんの進行程度によって、肛門の括約筋にがんが残る場合には、肛門も切除しなければならないために左下腹部に人工肛門が造られます。

③がんが肛門括約筋に残らず、完全に切除可能な場合は、高度な専門技術を要しますが、肛門の3,4センチの部位にS状結腸を肛門に肛門側から吻合することが可能です。直腸がんが4~6センチの場合は、がんの大きさ、進行程度、男性か女性か、また、前方か後方か、肥満かやせているかなどいろいろな条件によって術式は異なります。いずれにしても極めて重大な決定となるので、専門外科医とよく相談し、別の医師の意見も聞くなどしてください。
平成17年6月28日 読売新聞掲載記事

その4 クローン病の疑い。治りますか

[問い]肛門のおできが痛くて膿が出ました。年に何回も繰り返したので、診察を受けたところ、クローン病の疑いとのこと。治りますか。
(名古屋市 会社員・茂木 20歳)

[答え]クローン病は病変のある部位により、小腸型、大腸・小腸型、大腸型に分けられます。相談者のようにしばしば肛門病変を伴う治りにくい痔ろうと言う症状から、痔ろうと診断されることがあります。
肛門にあるおできは、肛門周囲炎が肛門周囲膿瘍になり、自然に破れて排膿したもので、痔ろうといます。普通の痔ろうは、痔ろう根治手術で治りますが、クローン病の痔ろうは手術をしても再発し、自壊した皮膚の外孔が二つ、三つと増え、いわゆる複雑痔ろうの状態になります。
肛門病変は、治らず徐々に拡大していくことが多く、肛門病変以外の腹部症状は腹痛、下痢、腹部腫瘤のほか、体重減少、貧血などが現れます。発症年齢は10歳代後半から20歳代に多く、まだ原因は分かっていませんが、この病気は特殊な肉芽腫を形成する腸の炎症です。
クローン病かどうかは小腸、大腸造影検査、大腸内視鏡検査、生検などによって診断がつきます。
発症の原因が不明なので、根本的な治療法は現在のところありませんが、腸管の安静を保つようにたんぱく質や脂肪を避けて成分栄養、あるいは中心静脈栄養をしながら薬を投与します。
時に腸が狭くなったり、腸閉塞、肛門病変の増悪では、外科的手術が必要です。病状は良くなったり、悪くなったりを繰り返します。気長にストレスのないように休養、睡眠を十分にとり、大腸肛門疾患の専門医の診察を受けて下さい。
平成17年3月29日 読売新聞掲載記事

その3  潰瘍性大腸炎。治りますか

[問い]血液と膿の混じったジャム状の下痢が頻繁にあり、腹痛に悩まされたので検査を受けたところ、潰瘍性大腸炎と分かりました。治りますか。
(岐阜県羽島市 会社員・瀬戸 24歳)

[答え]潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜が炎症を起こし、ただれて潰瘍を作る原因不明の病気です。発症は二十代に多いのですが、小児から高齢者でも発症します。症状は突然であったり、徐々に出てきたりします。重症では下痢が一日六回以上、目で見ても便に血が混じっていて、発熱や貧血もあり、脈拍も多く、血沈も進みます。
治療は軽症か中等症では、薬の内服からはじめますが、侵されている範囲が直腸のみの場合は、ステロイドの坐薬、注腸を肛門から入れると効果があります。
大腸の左半分、あるいは全大腸が侵されている場合は、さらにステロイド剤を内服します。一般には、この治療を続けると軽快します。しかし、良くなったり、再発したりを繰り返すので、症状が消えてもすぐ治療をやめないことが大切です。風邪やストレスなど体力の消耗で悪くなることもあり、日ごろの生活に十分な注意が必要となります。
こうした治療でも症状が改善せず、重症になると、大腸を支配している動脈からのステロイド注入や白血球除去療法なども効果がありますが、外科的手術が必要になる場合もあります。
平成16年12月14日 読売新聞掲載記事

その2  過敏性大腸症候群。治りますか

[問い]下痢や便秘、腹痛が慢性的に続いています。診察の結果、過敏性大腸症候群とのことです。
治りますか。
(名古屋市 匿名・女性 29歳)

[答え]水溶性下痢の後、便秘傾向でコロコロの硬い便が出て、時々締め付けられるような腹痛を起こすなどの症状を繰り返すのは便通異常といわれるものです。便通異常では、ポリープやがん、クローン病、潰瘍性大腸炎、憩室炎などの有無を、大腸造影などで調べ、異常がなければ大腸の機能性障害となります。
過敏性大腸症候群は、心理、社会的ストレス、不規則な生活など脳機能と消化管機能が関連する病気とされています。治るかどうかということですが、治ります。
治療ですが、まず第一に、生活の質(QOL)が大きく障害されるので、訴えをよく聞いてくれる大腸肛門の専門の医師を選んでください。
第二に、生活習慣、多くは不規則な食事、偏食、睡眠不足、精神的ストレスが原因にあるので規則正しい生活を心がけて実行することです。
第三に、消化管の運動を調整するために薬を内服します。体内に吸収されずに副作用のない便秘にも下痢にも効く、高分子重合体の製剤や、不安が強い場合には抗不安薬か抗うつ剤を用いたりします。抗うつ剤は下痢型に効きます。乳酸菌製剤も腸内を酸性にして腸管の動きを調整します。第四に、薬が効かない場合は、簡易精神療法や心理療法を行いますが、心療内科、精神科の治療を要することもあります。
平成16年7月27日 読売新聞掲載記事

その1 直腸ポリープが気になる

[問い]事業健診で直腸ポリープのあることが分かりました。特に症状はないのでそのままにして1ヶ月たちましたが、気になっています。治療を受けたほうがよいですか。
(名古屋市 会社員・川上 55歳)

[答え]健診で大腸にバリウムを注入してレントゲン撮影する検査(注腸検査)によって発見されたポリープは、ポリープの性質がどのようなものか正確に判断できません。
と言うのは、そのポリープが潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症によって発生している炎症性ポリープなのか、がんに変わらない良性腫瘍なのか、あるいは今は良性だが、大きくなると、また放置しておくとがんに変わる悪性腫瘍なのか、それとももう既にがんになっているのか、さまざまな性質があるからです。
1ヶ月放置されていたようですが、直ちにとは言いませんが、ポリープを実際に見ることのできる大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。
ポリープを大腸内視鏡で観察し、組織検査が必要ならばポリープの一部をとって調べる生検ではなく、ポリープ全部を内視鏡下で切除することができます。この方法は痛くもなく、安全で、最も安心できる切除方法です。切除されたポリープは、顕微鏡によって診断されます。その診断が、もしがんであればがん細胞の深さによってポリープ切除だけで十分治療されたとするか、ポリープ切除だけでは不十分で、腸管の追加切除手術が必要かを決めます。

ぜひ一度、大腸内視鏡検査を受けてください。

平成16年4月27日 読売新聞掲載記事